原価計算と税務
直接原価計算での調整方法
直接原価計算とは、原価を変動費と固定費とに分解し、売上高からまず変動費を差し引いて貢献利益を計算し、貢献利益から固定費を差し引いて営業利益を計算することによって、正規の損益計算書上に、短期利益計画に役立つ原価・営業量・利益の関係を明示する損益計算の1方法です。
ただし、直接原価計算はいわゆる部分原価計算になりますので、制度会計上、外部報告として認められていません。したがって、仮に直接原価計算を期中の原価計算方式として採用している場合には、年度末にそれを全部原価計算方式に改めておかなければなりません。
基本的には、
全部原価計算の営業利益=直接原価計算の営業利益+期末在庫品中の製造固定費―期首在庫品中の製造固定費
で、実際の処理としては、
会計上は、
- 間接費として認識されている固定費について、期首の仕掛品・製品や期末の仕掛品・製品を勘案して、売上原価となる部分と期末在庫となる部分に個別製品ごとに再計算する方法
- 変動加工費を配賦基準として一括して固定費総額を売上原価(の変動加工費)と期末在庫(の変動加工費)に配賦してしまう方法
2種類があります。
税務上は、原価差額の調整になりますので、
- 原則
原価差額のうち期末棚卸資産に対応する部分の金額は、当該期末棚卸資産の評価額に加算する。
となっています。
このため原価差額の調整は、仕掛品、半製品、製品といった段階的な調整方法(いわゆるころがし方式)で行うこととなります。
ここで以下の例で計算してみます。
【前提】
仕掛品はないものとします。
<変動費> 当年度 前年度
直接材料費 1,500,000 1,200,000
直接労務費 2,000,000 1,800,000
____計 3,500,000 3,000,000
<固定費>
製造間接費 500,000 500,000
___合計 4,000,000 3,500,000
<生産・販売量>
期首 2,000 0
生産 10,000 10,000
販売 9,000 8,000
期末 3,000 2,000
<販管費> 300,000
<販売単価> @500
この場合の計算結果は、
【全部原価計算】
売上高 @500* 9,000 4,500,000
売上原価
期首製品@350* 2,000 700,000
期中製品@400* 10,000 4,000,000
______合計 4,700,000
期末製品@400* 3,000 1,200,000
______差引 3,500,000 3,500,000
売上総利益 1,000,000
販管費 300,000
営業利益 700,000
【直接原価計算】
売上高 @500* 9,000 4,500,000
変動売上原価
期首製品@300* 2,000 600,000
期中製品@350* 7,000 2,450,000
______合計 3,050,000 3,050,000
貢献利益 1,450,000
固定費
製造固定費 500,000
販管費 300,000
__合計 800,000 800,000
実際営業利益 650,000
となります。
棚卸資産原価の配分方法は先入先出法として調整額を計算すると、
固定費調整(先入先出)
期首分 500,000*2,000/10,000= △100,000
期末分 500,000*3,000/10,000= 150,000
修正後 700,000
となり、全部原価計算の数値と同じになります。
この例では仕掛品が無いなど簡略化していますので、あまり複雑な計算にはなりませんが、実際は非常に複雑な計算となり、実務上その適用はほとんど不可能な状況です。
次に、
会計上で認められている一括して行う方法は、
- 特例
「原価差額の簡便調整方法」(詳細はブログ「原価計算と税務・原価差額の調整方法」を参照願います。)と同じになります。
ただしこの方法は、
「法人が直接原価計算制度を採用している場合には、この調整方法の適用はない。ただし、この調整方法を適用することについて、合理性があると認めて所轄税務署長が承認をした場合には、この限りではない。」
となっており、直接原価計算では原則として適用が認められておりません。
ただし、期末棚卸資産又は固定費が少額であるなどの場合は、簡便法を適用することについて合理性があると税務署長が承認すれば適用することが可能となります。
上記【前提】で調整額を計算しますと、
簡便法調整額
前期分(売上原価算入分)
500,000*(@300*2,000)/(2,400,000+@300*2,000)= △100,000
当期分(棚卸分)
500,000*(@350*3,000)/(2,450,000+@350*3,000)= 150,000
_________________修正後 700,000
この式は、仕掛品がある場合等でもあまり複雑にはなりませんので、実務上でも適用することは可能な状況です。
ただし、簡便法によって一括配賦した原価差額は、翌期において発生した原価差額とは別に取扱い、翌期において一括して損金の額に算入することになります。
詳細はブログ「原価計算と税務・原価差額の調整方法」を参照願います。
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