ソフトウェアと税務
クラウドサービス用ソフトウェアの取扱
(1) 概要
会計上でソフトウェアの取扱については、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(以下「実務指針」という。)において、
「市場販売目的のソフトウェア」
と
「自社利用のソフトウェア」
に区分しています。
「実務指針」において、自社利用のソフトウェアが資産計上される場合の一般的な例として、
{ 通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等
を利用することにより、会社(ソフトウェアを利用した情報処理サービスの提供者)
が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得ることとなる場合 }
というのがあるため、
クラウドサービス用ソフトウェアも「自社利用のソフトウェア」として考えられる場合がありますが、サービスの形態が単純でない場合もあり、単純に「自社利用のソフトウェア」とすることは出来ません。
そのため、社団法人情報サービス産業協会(JISA)がクラウド(SaaS・ASP)用ソフトウェアについて下記のような内容を公表しました。
{ SaaS・ASP事業用ソフトウェア・サービスの4類型
「一般的なASPサービス」 :
データセンターにサーバーを設置し、インターネット等を通じて、ユーザにサービスを提供(ユーザは、使用量や期間に応じて料金を支払う)する形態。ユーザはデータセンターのサーバーを通じてのみサービス提供を受けることができる。
特定の顧客向けに制作するソフトウェア(アウトソーシングサービス目的のソフトウェアなど)と不特定多数の顧客向けに制作するソフトウェア(共同利用型サービス目的のソフトウェアなど)がある。
「一般的なASPサービスと通常のパッケージ販売の混合型」:
一般的なASPサービスに加えて、一時金による永続的な利用(ライセンス購入)の選択ができる形態。
「パッケージソフトの期間利用型」:
不特定多数の顧客向けに制作したソフトウェアを、インターネット等を通じてユーザにライセンスを提供し、ユーザはそのソフトウェアをPC・サーバー等にインストールすることにより、ソフトウェアを利用する。ユーザは、使用量や期間に応じて料金を支払う形態。
「パッケージソフトの期間利用型と通常のパッケージ販売の混合型」:
パッケージソフトの期間利用型に加えて、一時金による永続的な利用(ライセンス購入)の選択ができる形態。
そして、「一般的なASPサービス」の場合、「自社利用のソフトウェア」として会計処理する。
これに対し、「パッケージソフトの期間利用型」は通常のパッケージソフトと同様に「市場販売目的のソフトウェア」として会計処理する。
}
となっています。
(2) 自社利用のソフトウェアの処理
<会計上>
「実務指針」により
{
自社利用のソフトウェアの資産計上の検討に際しては、そのソフトウェアの利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であることが認められるという要件が満たされているか否かを判断する必要がある。その結果、将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合は無形固定資産に計上し、確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、費用処理する。
自社利用のソフトウェアに係る資産計上の開始時点は、将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑に基づいて決定する。そのような証憑としては、例えば、ソフトウェアの制作予算が承認された社内稟議書又はソフトウェアの制作原価を集計するための制作番号を記入した管理台帳等が考えられる。
}
となっているため、
【ソフトウェアの制作予算が承認されるまでの製作費は費用(研究開発費)として処理し、その後の分についてはソフトウェアとして資産計上する。】
こととなります。
ソフトウェアの償却方法は、
「実務指針」により
{
自社利用のソフトウェアについては、その利用の実態に応じて最も合理的と考えられる減価償却の方法を採用すべきであるが、一般的には、定額法による償却が合理的である。償却の基礎となる耐用年数としては、当該ソフトウェアの利用可能期間によるべきであるが、原則として5年以内の年数とし、5年を超える年数とするときには、合理的な根拠に基づくことが必要である。
}
とあるため、
【5年の定額法による。】
こととなります。
<税務上>
自社利用のソフトウェアについては、
{ ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用;
次に掲げるような費用の額は、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる。
- 自己の製作に係るソフトウェアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
- 研究開発費の額(自社利用のソフトウェアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限る。)
- 製作等のために要した間接費、付随費用等で、その費用の額の合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの
}
となっていますので、研究開発費については費用として処理することが可能です。
ただし、「自社利用のソフトウェアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限る。」となっているため、少しでも将来の収益獲得または費用削減になる部分はソフトウェアとして計上する必要があります。
一般に企業がクラウドサービス用ソフトウェアを研究開発する場合は製品化を目的としているものと思われますので、普通「その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなもの」にはならないものと考えられます。
そのため会計上は、「将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点」、つまり制作予算が承認された時点から資産に計上すれば良いのですが、税務上は、「その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなもの」となるため、
【制作開始時点から資産計上する。】
必要があると考えられます。
ソフトウェアの償却方法は、
ソフトウェアの耐用年数は「複写して販売するための原本」が3年、「その他のもの」が5年ですので、
【5年の定額法による。】
こととなります。
償却方法については、会計上と同じ扱になります。
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