原価計算と税務・原価差額の調整(調整省略の場合)

原価計算と税務

原価差額の調整(調整省略の場合)

原価差額(原価差異)とは

<会計上>
(会計上は原価差異と言います。)

原価差異とは、

  1.  実際原価計算制度において、原価の一部を予定価格等をもって計算した場合における原価と実際発生額との間に生ずる差額。
  2. 標準原価計算制度において、標準原価と実際発生額との間に生ずる差額。

を言います。

原価差異の種類としては、

  1. 実際原価計算制度
    ①材料副費配賦差異
    ②材料受入価格差異
    ③材料消費価格差異
    ④賃率差異
    ⑤製造間接費配賦差異
    ⑥加工費配賦差異
    ⑦補助部門費配賦差異
    ⑧振替差異
  2. 標準原価計算制度
    ①材料受入価格差異
    ②直接材料費差異
    ③直接労務費差異
    ④製造間接費差異

です。

原価差異の会計処理は、

  1. 実際原価計算制度における原価差異の処理は、次の方法による。
    ①原価差異は、材料受入価格差異を除き、原則として当年度の売上原価に賦課する。
    ②材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦する。この場合、
    材料の期末在高については、材料の適当な種類群別に配賦する。
    ③予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合、直接材料費、
    直接労務費、直接経費および製造間接費に関する原価差異の処理は、次の方法による。
    (1) 個別原価計算の場合 次の方法のいずれかによる。
    イ 当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に指図書別に配賦する。
    ロ 当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。
    (2) 総合原価計算の場合 当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦する。
  2. 標準原価計算制度における原価差異の処理は、次の方法による。
    ①数量差異、作業時間差異、能率差異等であって異常な状態に基づくと認められるものは、
    これを非原価項目として処理する。
    ②前記 1 の場合を除き、原価差異はすべて実際原価計算制度における処理の方法に準じて処理する。

となっています。

<税務上>
(税務上は原価差額と言います。)

原価差額とは、
法人が各事業年度において製造等をした棚卸資産につき算定した取得価額が、《棚卸資産の取得価額》に規定する取得価額に満たない場合におけるその差額。
を言います。

原価差額の税務上の処理は、

  1. 原則
    原価差額のうち期末棚卸資産に対応する部分の金額は、当該期末棚卸資産の評価額に加算する。
  2. 調整の省略
    原価差額が少額(総製造費用のおおむね1%相当額以内の金額)である場合において、法人がその計算を明らかにした明細書を確定申告書に添付したときは、原価差額の調整を行わないことができるものとする。
    (原価差額が少額かどうかについては、事業の種類ごとに判定するものとするが、法人が製品の種類別に原価計算を行っている場合には、継続して製品の種類の異なるごとにその判定を行うことができる。)

となっています。

このため、会計上の「比較的多額の原価差異」の意味を総製造費用の1%を超えるものとしてとらえれば、税務上も問題はないこととなります。

ここで、総製造費用の1%を超えるかどうかの判定における税務上の特例があります。

  1. 総製造費用が正確に計算できない場合。
    以下の計算式で計算した金額を使用できます。
    総製造費用=(製品受入高合計+仕掛品期末棚卸高+半製品期末棚卸高)
    -(仕掛品期首棚卸高+半製品期首棚卸高)
  2. 工場ごとに計算している場合
    税法上では、
    (原価差額が事業の種類ごと又は製品の種類の異なるごとの総製造費用のおおむね1%相当額を超える場合においても、法人が原価差額の調整単位を更に工場ごとに細分しているときは、各工場における当該調整単位ごとの原価差額のうちそれぞれの総製造費用の1%相当額以内のものについては、調整を行わないことができるものとする。)
    となっています。
    例として、
    X製品(総製造費用20,000,000、原価差額300,000)を
    A工場とB工場でそれぞれ以下の数値で
    A工場 X製品(総製造費用18,000,000、原価差額180,000)
    B工場 X製品(総製造費用 2,000,000、 原価差額120,000)
    製造していた場合
    X製品全体では
    300,000÷20,000,000=1.5%
    で1%を超えますが、
    A工場では
    180,000÷18,000,000=1.0%
    で1%を超えないので、A工場分は調整が不要となります。
  3. 計算期間を上期・下期に分けている場合
    税法上では、
    (事業年度が1年である法人の原価差額の調整は、継続適用を条件に、「上期」と「下期」とに区分し、それぞれの期間について行うことができる。この場合、上期及び下期のそれぞれの期間ごとに、その期間に発生した原価差額によりその調整の要否を判定する)。
    となっていますので注意が必要です。
    例として
    上期(総製造費用50,000,000、原価差額300,000)
    下期(総製造費用50,000,000、原価差額600,000)
    の場合、
    1年間では
    (300,000+600,000)÷(50,000,000+50,000,000)=0.9%
    で1%を超えていませんが、
    下期は
    600,000÷50,000,000=1.2%
    で1%を超えてしまっているため、調整の計算が必要となっています。

 

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